
森村酉三氏については、このシリーズ第38話に書いたように矢島八郎翁銅像の作者でもあり、観音山には縁の深い人物です。
また、森村酉三氏と白衣大観音のことについては、もう6年も前に「観音さまの縁結び」という題で記事にしています。
もう、これ以上何を書くのかという感じですが、7月28日の上毛新聞「三山春秋」に面白い話が載っていましたので、これに絡んだお話を少し。
作家・江戸川乱歩と森村酉三は、東京池袋で隣り合わせに住んでいたというんです。
このシリーズ第48話で、作家の松村梢風が白衣大観音を酷評した時、酉三の妻・寿々(すず)さんが梢風の家に捻じ込みに行くのに、江戸川乱歩の紹介状を持っていったというエピソードをご紹介しましたが、そういうことだったんですね。
で、乱歩の「少年探偵団」を読み直してみました。
東京世田谷の淋しい住宅地にある一軒の洋館。
明智小五郎に正体を見破られた、洋館の主人・春木こと怪人二十面相は、二階の窓から黒い軽気球に乗って夜の空へ逃走します。
翌朝、熊谷市付近で黒い風船のようなものが群馬県の方へ飛び去るのを、人々が目撃します。
その報せを受けた新聞社のヘリコプター4台が、熊谷と高崎の中間位のところで気球に追いつき取り囲みます。
この後は、原文によってご堪能頂きましょう。
「 | やがて、高崎市の近くにさしかかったとき、とうとう二十面相のうんのつきがきました。黒い気球はとつぜん浮力をうしなったように、みるみる下降をはじめたのです。 |
気球のどこかがやぶれて、ガスがもれているようです。おお、ごらんなさい。今まではりきっていた黒い気球に、少しずつしわがふえていくではありませんか。 | |
おそろしい光景でした。一分、二分、三分、しわは刻一刻とふえていき、気球はゴムまりをおしつぶしたような形にかわってしまいました。 | |
風が強いものですから、下降しながらも、高崎市の方角へ吹きつけられていきます。四台のヘリコプターは、それにつれて、かじを下に向けながら、ひし形の陣形をみだしませんでした。 |

高崎の丘の上には、コンクリート造りの巨大な観音像が、雲をつくばかりにそびえています。その前の広場にも、奇怪な空のページェントを見物するために、多くの人がむらがっていたのですが、その人々は、どんな冒険映画にも例のないような、胸のドキドキする光景を見ることができました。 | |
晴れわたった青空を、急降下してくる四台のヘリコプター、その先頭には、しわくちゃになったまっ黒な怪物が、もうまった |
ひじょうな速力で地上へとついらくしてくるのです。 | |
傷ついた軽気球は、大観音像の頭の上にせまりました。サーッと吹きすぎる風に、しわくちゃの気球が、いまにも観音さまのお顔に巻きつきそうに見えました。 | |
「ワーッ、ワーッ」というさけび声が、地上の群衆の中からわきおこります。 |
|
気球は観音さまのお顔をなで、胸をこすって、黒い怪鳥のように、地面へと舞いくだってきました。そして、また、「ワーッ」とさけびながらあとじさりする群衆の前に、横なぐりに吹きつけられて、とうとう黒いむくろをさらしたのでした。 | |
軽気球のかごは、横だおしになって地面に落ち、風に吹かれるやぶれ気球のために、ズルズルと五十メートルほども引きずられて、やっと止まりました。中のふたりはかごといっしょにたおれたまま、気をうしなったのか、いつまでたっても起きあがるようすさえ見えません。」 |
駆け付けた警官が二人を抱き起そうとすると、それは蠟細工の人形だった、という展開なんですが・・・。
建立後一年の白衣大観音を新作の小説に取り入れたというのも、酉三と隣人同士のよしみならではのことです。
ところで、この話で思い出したことがあります。
白衣大観音が、あのゴジラ映画に出演していたかも知れないという、わりと有名な話です。

(写真は、勇さんのブログ「怪獣爆裂地帯!!」より)
これについて、慈眼院のご住職はこんなことを仰ってます。
「 | さすがのゴジラも観音さまのご威光を恐れて壊さずに通り過ぎたので、現在観音さまは無事に建立79周年の美しいお姿で佇んでいらっしゃるのです。 もしかしたら合掌して頭を下げていったかもしれません。」 |
なるほど。
あ、すっかり森村酉三氏から話が逸れてしまいました。
次回、もう一度ご登場願いましょう。