小田原藩主・大久保忠真(ただざね)公に、下野国桜町領(現・栃木県芳賀郡二宮町、真岡市)の復興を命じられた金治郎は、「私にすべてを任せてくれるなら、十年で復興させる。」と、忠真公に約束する。
その「公約」に至る経過を、「報徳記」から抜粋する。
旗本・宇津家が知行する桜町領の状況は、次のようであった。
当初、「農民の自分にそのようなことはできない。」と固辞する金次郎に、忠真は礼を尽くして再三にわたる命を下す。
これ以上断ることはできないと覚悟した金治郎は、次のように答える。
そして金治郎は桜町領へ赴き、数十日掛けて一軒一軒訪れて、農民の貧富の度合いや勤勉であるか怠惰であるかを観察、また田畑や野の地味、水利の難易などを調査し、風土・民心・再建の可否を見究めた上で、こう報告した。
「復興にはどの位の金が必要になるか分からない。」と言いながら、次のような願いを忠真公にする。
「復興する資金を出してはならんとは、一体どういうことか。」と問う忠真公に、その理由を次のように語る。
「ではどのような手段で復興させるのか。」との問いには、こう答える。
その上で、すべてを任せてもらえれば、十年で二千俵の貢納ができるまで復興させることを忠真公に約し、命を受けることとなる。
そして、自らの田畑・家財は全て売り払って復興資金とし、妻子を連れて桜町へ移り、あらゆる妨害にも屈することなく、約束通り十数年で三千石を産する地に復興させた。
宇津家の税収入は八百石から二千石に増収し、領民は三千石から二千石に減税となった。
なおかつ、余剰の一千石を年々備蓄できるようになり、これが小田原藩を天保の大飢饉から救うこととなる。
迷道院独白
公約は、斯くありたし。
・事前の実態調査を徹底的に行い、問題点を究明する。
・その上で、実現可能な目標(いつまでにどの位)を定める。
・どのような手段でその目標を実現するかを明確にする。
・誠心誠意、説明を尽くす。
その「公約」に至る経過を、「報徳記」から抜粋する。
旗本・宇津家が知行する桜町領の状況は、次のようであった。
「 | 元禄年中までは戸数四百五十軒なりしが、連年離散のもの多く、文政度(文政年間)に至りては僅かに百四五拾軒を残せり。 |
互に利を争ひ、争論訴訟絶ゆることなく、動(ややも)すれば相闘ふに至れり。 | |
故に衰貧極り、田野荒蕪(こうぶ)し、渺茫(びょうぼう:果てしなく)として民家狐狸の住居となるもの多く、収納中古(むかし)四千苞(ぴょう:俵)を納めしに、僅(わずか)に八百苞を納む。 | |
宇津家の艱難も亦(また)窮(きわま)れり。」 |
当初、「農民の自分にそのようなことはできない。」と固辞する金次郎に、忠真は礼を尽くして再三にわたる命を下す。
これ以上断ることはできないと覚悟した金治郎は、次のように答える。
「 | 某(それがし)数度の命に応ぜず、君(きみ)之に令すること已(すで)に三年、辞する所を知らず。 止む事を得ずんば彼(かの)地に至り、土地人民衰廃の根元、再復成不成の道を熟視し、然る後受命の有無を決すべし。 今予め其の命に随ふこと能(あた)はず。」 |
そして金治郎は桜町領へ赴き、数十日掛けて一軒一軒訪れて、農民の貧富の度合いや勤勉であるか怠惰であるかを観察、また田畑や野の地味、水利の難易などを調査し、風土・民心・再建の可否を見究めた上で、こう報告した。
「 | 土地瘠薄(せきはく:痩せている)にして人民の無頼怠惰も亦(また)極る。 |
然りと雖(いえど)も之を振起するに仁術を以てし、邑民旧染の汚俗を革(あらた)め、専(もっぱ)ら力を農事に尽す時は再興の道なきにあらず。 而して仁政行われざる時は、仮令(たとえ)年々四千石の貢税を免ずといへども、彼の貧困は免ることあるべからず。(略) |
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厚く仁を施し其の艱苦を去りて安栄に導き、大いに恩沢を布きて其の無頼の人情を改め、専ら土地の貴き所以(ゆえん)を教へ、力を田圃に尽さしむるにあり。 然して此の興復の用度幾千万金なるや予め其の数を定め難し。」 |
「復興にはどの位の金が必要になるか分からない。」と言いながら、次のような願いを忠真公にする。
「 | 前々、君(きみ)彼の土地再復を命ずるに、許多(いくた)の財を下し玉ふ(給う)。 是を以て其の事成らず。 以後之を興復せんに必ず一金も下し玉ふことなかれ。」 |
「復興する資金を出してはならんとは、一体どういうことか。」と問う忠真公に、その理由を次のように語る。
「 | 君(きみ)財を下せば邑宰(ゆうさい:名主)村民共に此の財に心奪はれ、互に財の手に入らんことを欲し、下民は邑宰の私(自分勝手)を論じ、宰官(さいかん:村役人)のものは下民の私曲(しきょく:自分の利益だけを考えて不正なことをする)而已(のみ)を憂ふ。 互に其の非を論じ、其の利を貪(むさぼ)り、終(つい)に興復の道を失ひ、弥々(いよいよ)人情を破り、事(こと)廃するに至れり。 是(これ)用財を下し玉ふの災なり。」 |
「ではどのような手段で復興させるのか。」との問いには、こう答える。
「 | 荒蕪を開くに荒蕪の力を以てし、衰貧を救ふに衰貧の力を以てす、何ぞ財を用ひんや。(藩財を使う必要があるでしょうか) |
荒田一反を開き、其の産米一石有らんに、五斗を以て食となし、五斗を以て来年の開田料となし、年々此の如くにして止めざれば、他の財を用ひずして何億万の荒蕪と雖も開き尽すべし。 | |
吾(わが)神州往古開闢(かいびゃく)以来、幾億万の開田其の始(はじめ)、異国の金銀を借りて起したるには非(あら)ず。必ず一鍬よりして此の如く開けたるなり。 | |
今荒蕪を挙げんとして金銀を求むるは、其の本を知らざるが故なり。 | |
苟(いやしく)も往古の大道を以て荒蕪を挙げんに、何の難きことか之あらん。」 |
その上で、すべてを任せてもらえれば、十年で二千俵の貢納ができるまで復興させることを忠真公に約し、命を受けることとなる。
そして、自らの田畑・家財は全て売り払って復興資金とし、妻子を連れて桜町へ移り、あらゆる妨害にも屈することなく、約束通り十数年で三千石を産する地に復興させた。
宇津家の税収入は八百石から二千石に増収し、領民は三千石から二千石に減税となった。
なおかつ、余剰の一千石を年々備蓄できるようになり、これが小田原藩を天保の大飢饉から救うこととなる。
迷道院独白
公約は、斯くありたし。
・事前の実態調査を徹底的に行い、問題点を究明する。
・その上で、実現可能な目標(いつまでにどの位)を定める。
・どのような手段でその目標を実現するかを明確にする。
・誠心誠意、説明を尽くす。