2015年07月19日

駅から遠足 観音山(40)

再び、観音山です。

矢島八郎の銅像の台石に嵌め込まれている銘板の文は、森村酉三に銅像を依頼する4ヶ月前、既に高崎に関係ある三人の名士に依頼されていました。

駅から遠足 観音山(40)駅から遠足 観音山(40)

←題字は、最後の高崎藩主・大河内輝聲の長男・大河内輝耕(きこう)。
撰文は、銚子出身の旧高崎藩士で文学博士の松井閒治(かんじ)。
書は、高崎在住の書家(詩歌人?)・松村琴荘(梥邨芳)。

話しは少し横道にそれますが、上記、大河内輝耕のリンク先に書かれている言葉「人貴キカ 物貴キカ」について、少し書いておこうと思います。

それは昭和十二年(1937)十月一日に施行された「防空法」に端を発します。

昭和十二年といえば日中戦争の始まった年ですが、それを見越すかのように、前年の昭和十一年に「防空に關する縣民心得」というものが発行されています。
(群馬県立図書館デジタルライブラリーより)
駅から遠足 観音山(40)

その中には、「先づ防火!防毒!次で避難!」ということで、火を消す望みが絶対になくなるまで、逃げてはいけないと書かれています。↓
駅から遠足 観音山(40)

これだけでも国民の間には「逃げてはいけない」という空気が出来上がっていきますが、昭和十六年(1941)十一月二十六日の防空法改正で、「退去の禁止」「応急消火義務」の条文が追加されます。
さらに真珠湾攻撃の前日、つまり昭和十六年十二月七日には、「空襲時ニ於ケル退去及事前避難ニ関スル件」という通牒が出され、「退去ハ一般ニ行ハシメザルコト」と定められました。
これにより、幼児・老人・病人以外の国民は、空襲があった時に消火をせずに逃げると、罪に問われることになった訳です。

これが、昭和二十年(1945)三月十日の東京大空襲に於いて、十万人もの死者を出す一因になったと言われています。
2015年3月4日付東京新聞Webの記事をご覧ください。
  ◇防空法で犠牲拡大 空襲時「逃げずに消火」

その東京大空襲から四日後の「第86回帝国議会貴族院秘密会議」に於いて、質問に立った大河内輝耕議員の言葉が速記録に残っています。
◇大河内議員◇
此ノ次ハ東京ガ全部ヤラレルカモ知レヌ、恐ラクヤラレルデセウ、其ノ場合ニ人ヲ助ケルカ物ヲ助ケルカ、ドッチヲ助ケルカ之ヲ伺ヒタイ、私ハ人ヲ助ケル方ガ宜イト思フ、・・・ソレガ宜イトスレバ、一ツ内務大臣カラ十分ニ徹底スルヤウニ隣組長ナリ実際ノ指揮ヲスル者ニ言ッテ戴キタイ、火ハ消サナクテモ宜イカラ逃ゲロ、之ヲ一ツ願ヒタイ

◇大達内務大臣◇ ドウモ初メカラ逃ゲテシマフト云フコトハ是ハドウカト思フノデアリマスガ、・・・一応従来ノ計画ト致シマシテハ、大火災ノ場合ニハ、例ヘバ神田区ノドノ辺ノ者ハ何処ヘ一応避難スル、サウシテ避難ヲシタ先カラ今度ハドノ方面ニ向ッテ又更ニ移動シテ行ク、是ハマア机上ノ計画カモ知レマセヌガ、一応サフ計画ハ出来テ居ルノデアリマス。


「人貴キカ 物貴キカ」・・・今も変わらぬ問いですね。

さて、だいぶ横道に入り込んでしまいましたが、こんど矢島八郎像をご覧になった時、大河内輝耕のことと共に、戦争というものの理不尽さも思い出していただけたらと思います。





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Posted by 迷道院高崎 at 06:58
Comments(2)観音山遠足観音山
この記事へのコメント
最近の火災発生時の心得は「通報・初期消火・避難」だそうですが、“空襲があったとき、消化しないで逃げると罪になる”って、恐ろしい時代だったのですね。
Posted by 風子風子  at 2015年07月26日 08:57
>風子さん

初期消火は「天井に火が回るまで」だそうです。
焼夷弾で軒並み家が燃えてる状態で、バケツリレーじゃ土台無理な話です。
でも、戦時はそれが無理じゃなくなっちゃうところが、怖いです。
Posted by 迷道院高崎迷道院高崎  at 2015年07月26日 13:02
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