
下戸の迷道院が、この造り酒屋を訪ねたいと思うようになったきっかけは、映画「降りてゆく生き方」の上映会で、寺田啓佐(てらだけいすけ)さんの講演を拝聴したことです。
実は、「日本酒」というのは、あまり好きではありませんでした。
燗をすると鼻にツーンとくるし、冷やで飲むと舌にピリピリッとくるし・・・。
そう言うと日本酒通の方からの、「そりゃ、安い酒しか飲んだことがないからだ。」という声が聞こえてきそうです。
でも、旅行先で名のある造り酒屋の「大吟醸」などという高いお酒を飲んでも(もちろん試飲ですが)、そう感じるんです。
と言うとまた、「お前は、酒の味が分からないんだ。」と言われちゃうんでしょうね。

芋焼酎の「伊佐美」を飲んだ時と、同じ驚きでした。
ワインのソムリエ風に言えば、「母の胸に抱かれているような、柔らかい芳香と味わい」(キザ!)です。
「五人娘」の名付け親・土屋文明氏は、「まじりっけのない、けがれを知らない娘のイメージだ。」と表現したそうですが。
あ、高崎では、「土屋文明記念館」に近い保戸田町の「鈴木酒店」さんで取り扱っていますので、一度飲んでみてください。
下戸のくせして、お酒の話を長々としてしまいましたが、そんなことで、一度「寺田本家」さんを訪ねてみたいと思っていたのです。


国の登録有形文化財に指定されている醸造蔵の手前に、一体の観音様が祀られていました。

斉藤一人さんに出会って、人生観やものの考え方が大きく変わったという寺田啓佐さんは、著書「斉藤一人・発酵力」の中でこう綴っています。
「 | 私は添加物を使わない『百薬の長』と言われた昔ながらのお酒造りにこだわってきました。だから、売れなくてもしょうがないと |
思っていたのです。しかし一人さんはこう言います。 『こんなにいいお酒を造ってるんだから、もっと多くの人に知ってもらわなきゃダメだよ。そして、日本一の酒蔵をめざそう!』 (略) |
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今までの私は、『清貧の思想』にすごく憧れていました。それは『貧しくても清く生きる』ということなのですが、どこか、『清く生きるということは、貧しさをともなうものだ』と思いこんでいました。しかし天は、清く生きる人には豊かさをも、もたらしてくれるのです。 | |
それからの私は一人さん流で、『清富の思想』に考えを変えました。つまり、大欲を持って多くの人に喜んでもらえるお酒を造り、そのご褒美として利益もありがたくいただく。そしてその利益をまた世間の人に喜んでもらえるように還元し、世の中に貢献していく。 | |
このように、清く豊かに生きようと思うのです。」 |
寺田啓佐さんは、この本を書き上げた後、出版を待つことなく昨年の四月、発酵人生を全うして旅立たれました。
啓佐さんの思いは、寺田本家第二十四代当主となった寺田優さんが継いでおられます。

その31日目に、「寺田本家家訓」が載っていました。
これが、寺田啓佐さん発酵人生のすべてなんだと思います。

その原動力となったのは、神崎の歴史と信仰と人々のつながりに違いありません。
わが高崎の町づくりも、大いに参考とすべきではないでしょうか。