2013年01月20日

幻の田村隧道(4)

田村今朝吉氏が、「金ヶ崎用水」のトンネル掘削工事に協力しようと思ったのは、氏が「高松製糸所」を経営していたことが大いに関係しています。

製糸所では繭から糸をひくために繭を熱湯に浸しますが、その燃料として亜炭を使用していました。

当時、鼻高・乗附・寺尾の丘陵では、亜炭が盛んに掘り出されていました。

今朝吉氏も、乗附の山に、月約14トンの亜炭を掘り出す「田村炭鉱」というのを持っており、ここで採れる亜炭を「高松製糸所」で使っていたのです。

今朝吉氏は、炭鉱の坑道を掘る技術を、用水のトンネル工事に利用できると考えたわけです。
当時「田村炭鉱」で働いていた12名の中から、腕に自信のある4人が選抜されました。

昭和二十年(1945)九月、いよいよトンネル工事の開始です。
翌年の田植えの時期までに完成させなければなりません。
時間を掛けてきちんとした設計図を作る間もなく、簡単な測量だけで工事を始めることにしたのです。
トンネルは、上(かみ)と下(しも)の両方から掘り進むことにしました。

昼間は炭鉱の仕事があるので、トンネル工事は夕方から始めます。
アセチレンガスを燃やしたカンテラのわずかな明かりの中、湧水に悩まされながら、全身泥だらけになって、毎日のように作業を続けたといいます。

ツルハシカナヤ(石鑿、くさび)などの手工具だけで、崩れ止めの矢板も使わない素掘り工事でした。

掘った岩はトロッコに乗せて外まで出し、碓氷川の岸に沿って積み上げました。
相当な量だったと思いますが、後に川が増水した時に流されてしまったそうです。

トンネルの上(かみ)の方は柔らかい土でしたが、下(しも)の方は硬い岩に覆われていたので、一晩中掘ってもせいぜい35cmほどしか掘れなかったそうです。
下(しも)から数十mほど掘り進むと、大きな硬い岩に突き当たりこれを砕くことができません。
そこで、この岩を避けるように、一旦岩の下を潜りぬけて再び上に向けて掘り進むことにしました。
問題は、上(かみ)の方から掘ってくる穴と、うまくドッキングできるかどうかです。

ちょうど上向きに掘り始めた頃、上の方から岩を砕く「カーン、カーン。」という音が響いてきました。
こちらも「カーン、カーン。」と岩を叩いて、答えます。

上と下からこの音を目指して一生懸命掘り抜いていくと、やがて小さな穴がつながりました。

この瞬間のことを、工事にあたった乗附岩雄さんが語っています。
小さな穴が開いてから、さらに岩を手でガラガラと取り除きました。
すると、冷たい風がスーと吹き抜けていきました。」

みんなで手を取り合い、これまでの苦労を忘れて喜びあったそうです。

大岩を避けるために、トンネルはここで高さ1.6mほどの段差ができてしまいました。
しかし実際に水を通してみると、これが具合のいいことに逆サイフォンの役割を果たし、かえって水が勢いよく吸い出されるという、意図せぬ効果を生み出すことになったのです。

もうひとつ、トンネル工事中に造ったもので、意図せぬ効果を生んだものがあります。
トンネル中央部から碓氷川に向かって掘り抜かれた「横トンネル」です。

中央部の土砂を運び出すのに、いちいち出入口まで往復しなくても済むように掘ったものですが、これが後の大水の時に役立ちました。
取水口から大量の水が入った時、「横トンネル」から余分な水が碓氷川に放出されるという、用水路の流量調整をするオーバーフロー管の役目を果たしたのです。

艱難辛苦の末、昭和二十一年(1946)五月五日、ついに「金ヶ崎隧道」は完成しました。

金ヶ崎堰水利組合の人々は、これを「田村隧道」と命名し、隧道の出口に完成記念碑を建てて、今朝吉氏の偉業を讃えたのです。

さて、それから56年経った今、「田村隧道」はどうなっているのでしょう。

「幻の田村隧道」、いよいよ大詰めです。

(参考図書:「金ヶ崎用水の歴史」)





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Posted by 迷道院高崎 at 08:48
Comments(2)田村隧道
この記事へのコメント
炭鉱の坑道を掘る職人さんは、レーザー測定器
などない、まさに匠そのものですね

見返りを求めない人は素晴らしい

悔いのない人生を生きたでしょう
Posted by wasada49  at 2013年01月20日 15:59
>wasada49さん

すごい能力ですよね。
いったいどうやって、方向と勾配を測定したんでしょう。

職人さんの技には、昔も今も驚かされます。
Posted by 迷道院高崎迷道院高崎  at 2013年01月20日 19:31
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