「二宮翁夜話」より
迷道院独白
此度の選挙結果を見て、株価は上がり円の価値は下がったとの由。
是すなわち天理、禽獣の道と見ゆ。
人道あらば、疾うに出来たることならむ。
「 | 翁曰(いわく)、夫(それ)人道は人造なり、されば自然に行はるゝ処の天理とは格別なり。 |
天理とは、春は生じ秋は枯れ、 火は燥(かわ)けるに付、 水は卑(ひくき)に流る、昼夜運動して万古易(かわ)らざる是なり。 人道は日々夜々人力を尽し、保護して成る。 |
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故に天道の自然に任すれば、忽(たちまち)に廃れて行はれず、故に人道は、情欲の侭(まま)にする時は、立ざるなり。(略) | |
夫(それ)人の賤む処の畜道は天理自然の道なり、尊む処の人道は天理に順ふといへども 、又作為の道にして自然にあらず。(略) | |
天理と人道との差別を、能(よく)弁別する人少し。 夫(それ)人身あれば欲あるは則(すなわち)天理なり。田畑へ草の生ずるに同じ、堤は崩れ堀は埋り橋は朽る、是(これ)則(すなわち)天理なり。 然れば、人道は私欲を制するを道とし、田畑の草をさるを道とし、 堤は築立(つきたて)、堀はさらひ、橋は掛替るを以て道とす。」 |
「 | 夫(それ)世の中、汝等が如き富者にして皆足る事を知らず飽くまでも利を貪り不足を唱ふるは、大人のこの湯船の中に立て、屈まずして湯を肩に掛けて、 湯船はなはだ浅し、膝にだも満たずと、罵るが如し。 |
若(もし)湯をして望(のぞむ)に任せば、小人、童子の如きは、入浴する事あたはざるべし。 | |
是(これ)湯船の浅きにはあらずして、己が屈まざるの過(あやまち)なり。 能(よく)此過を知りて屈まば、湯忽(たちまち)肩に満て、おのづから十分ならん、何ぞ他に求る事をせん。世間富者の不足を唱る、何ぞ是に異らん。(略) |
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夫(それ)仁は人道の極なり。(略) | |
近く譬(たとう)れば、此湯船の湯の如し、是を手にて己が方に掻けば、湯我が方に来るが如くなれども、皆向ふの方へ流れ帰る也。是を向ふの方へ押す時は、湯向ふの方へ行くが如くなれども、又我方へ流れ帰る、少く押せば少く帰り、強く押せば強く帰る、是天理なり。」 |
「 | 夫(それ)人体の組立を見よ、人の手は我方へ向きて我為に弁利に出来たれども、 又向ふの方へも向き、向ふへ押すべく出来たり、是人道の元なり。 鳥獣の手は、是に反して、只我方へ向きて我に弁利なるのみ。 |
されば、人たる者は他の爲に押すの道あり。 然るを、我が身の方に手を向け我為に取る事而已(のみ)を勤めて、先の方に手を向けて他の為に押す事を忘るゝは、人にして人にあらず、則(すなわち)禽獣なり。 豈(あに)恥かしからざらんや。」 |
迷道院独白
此度の選挙結果を見て、株価は上がり円の価値は下がったとの由。
是すなわち天理、禽獣の道と見ゆ。
人道あらば、疾うに出来たることならむ。