2012年10月17日

控帳 「取ると施すとの二つに止まれり」

夫れ国家の政体は多端(たたん)なるが如しといへども 
      之を要するに 取ると施すとの二つに止(と)まれり。

国の政(まつりごと)は多岐にわたっているように見えるが、
      要は、(民から)取ることと、(民に)施すことの二つだけである。
(富田高慶著「報徳記」より)

これは、財政破綻に陥っていた陸奥国相馬中村藩の家老・草野正辰が、二宮金次郎に復興の教えを乞いに行った時、金次郎が語った言葉。

中村藩(現在の福島県相馬市)は高六万石だが、元禄から正徳にかけての開墾で石高以上に田畑が増え、領民は豊かな暮らしができていた。
それを見た藩は検地をやり直し、新たに三万八千石分の年貢を徴収することにした。
これにより、藩の米蔵と金蔵は溢れんばかりとなり、それに応じて藩士たちの俸禄も増え、その生活は節倹を忘れ奢侈に流れるようになった。

一方、年貢が重くなったことで領民の生活は衰え、加えて天明期の大飢饉により、飢渇・死亡・離散する者おびただしく、村は人が減り、戸数が減り、増えるのは荒地ばかりとなった。
ために、藩の年貢収納は三分の一に減り、やがて蓄えもなくなって、藩自体が困窮することとなる。
藩は隣国や江戸の豪商から米や金を借り、膨らんだ借金で、もはや一年の租税では利息も返せぬ状態に陥る。

その時、藩主・相馬益胤(ますたね)に意見具申したのが、郡代を務めていた草野正辰(まさたつ)と池田胤直(たねなお)。
二人は、藩主自ら飲食・衣服を節約し、藩士の俸禄を減じ、万事一万石の大名の収支を基準にして節倹に励むよう忠言する。
これが藩主の心を打ち、二人を家老職に就けて復興に取り組むこととなった。

藩政がやっと安定しかかった時、天保期の飢饉が襲い、蓄えは再び底をつき、ついに二宮金次郎の力を頼ることとなった。
その時、金次郎が語ったのが、冒頭の「夫れ国家の政体は・・・」という話だった。
現代語訳で全文を見てみよう。

そもそも藩の政務は複雑多岐にわたるようでありますが、要約すれば、取ること、施すことの二つに尽きます。
この二つをおろそかにして何がありましょう。
盛衰も安危も、この二つに由来します。存亡・禍福もそうです。
ところが世間では、国の盛衰の理由を考えない。これでどうしてその衰廃を興すことができましょうか。
なぜなら、取ることを優先すれば国は衰え、民は窮乏し、恨みの心が生じ衰弱が加わる。
ひどいときには国家を傾け、滅亡に至らしめるほどである。
施すことを先にすれば国は栄え、民は豊かになる。領民はよく帰順し、上下とも富み、百代を経ても国家はますます平穏である。
聖人の政は恩恵を施すことを第一の務めとし、あえて取ることに心を用いない。
暗愚な主君は取ることを優先して、施すことを嫌う。
国がよく治まることもまた乱れることも、その原因はすべてここにあるのです。(略)
まず与えなければ民はその生を安んずることはできません。
民が貧しい時には我儘(わがまま)で邪(よこしま)になる。
ついに年貢は減少し、土地は荒廃し、上下の大きな心配となります。
与えることを第一にする時には、民はその生を楽しみ、なりわいを楽しみ、土地は毎年に開墾され、生活に必要な物資に困ることはなく、国の衰廃は求めても得られなくなります。(略)
私が荒廃した土地を開墾し、百姓をいつくしみ、その恩恵が他領にまで及んだのは特別なことではない。
ただ与えることを第一の務めとしたためです。
相馬藩が衰えて貧しいといっても、大いに恩恵を施し、領民をいつくしむときには、どうして復興しないことがありましょう。」
(児玉幸多氏編「二宮尊徳」【報徳記】より)


金次郎のことを、もう少し調べてみたくなった。





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