2011年05月22日

鎌倉街道探訪記(29)

山名駅北側の踏切脇に、「迎光碑」と刻まれた大きな石碑が建っています。

「侍従長海軍大将鈴木貫太郎書」とあり、
裏面には、
昭和九年十一月 大元帥陛下親シク群馬栃木埼玉茨城四縣ノ野ニ臨マセラレ(略)
御召列車ハ高崎ヨリ山名ニ至ルマテヲ上信電氣鐡道ニ依テ運轉シ山名停車場ハ畏クモ御乘降ヲ賜フノ光榮ニ浴セリ(略)」
とあります。

昭和九年(1934)の陸軍特別大演習の際、昭和天皇御召列車を運行し随従した上信電氣鐡道山田昌吉社長が、その栄を記念して建てたものです。
山田昌吉氏は、過去記事「和風図書館と茂木銀行」にも登場した、高崎の大物経済人です。

この御召列車運行に際しての並々ならぬ苦労を、平成七年(1995)発行の「上信電鉄百年史」が書き残しています。

万が一にも事故や運行時刻の遅早がないよう、見苦しいところが目に留まることのないよう、鉄道省監督局の厳重な路線監査があり、施設全般にわたる大掛かりな改修工事が命じられました。
 ・枕木1万3600本の交換
 ・橋梁枕木の修理交換
 ・転轍機(ポイント)、轍叉(レールの交差部分)の修理交換
 ・軌条(レール)の交換
 ・道床砂利の補給
 ・各駅建物の塗替え、清掃、消毒
 ・駅舎内外の目障りな障害物の取り消し
 ・塗装が剥脱した電車の再塗装

などですが、折からの昭和恐慌の影響でこれらの費用を捻出するのが困難だった上信電氣鐡道は、金融業者からの借り入れにより、これを賄ったそうです。

大変な思いをしたのは、社員も同じでした。
会社から全社員に向けて、次のような申し渡しが出ました。
 ・各自は常に言語を慎み、
   かりそめにも不敬の言語動作があってはならない。
 ・従業員は常に摂生に留意し、
   健康体を以てこの光栄なる名誉を分担すること。


関係者は全員、厳重な健康診断を受け、赤痢、チフスなど5,6種類の予防注射と検便が義務付けられ、警察特高課による、全従業員の身元・思想調査も厳しく行われたといいます。
また、県でも特別衛生警備隊を組織して、大演習の数週間前から道筋の両側3町(330m)以内にある民家を、徹底的に検病調査しています。

御召列車運行当日ともなると、関係者の緊張はピークに達したことでしょう。
運行の前後1時間は、すべての列車を運転休止にし、万が一を用心して架線への送電も停止しています。
また御召列車には、不慮の事故に備え、宮内省から辞令を受けた電気技術者が、緊急連絡用の有線手回し式通信機を持って、デッキに同乗していたそうです。

まさに、あらゆる危機を想定して準備し、身の縮む思いで天皇陛下をお迎えしたということがよく分かります。

今は、そんなことがなかったかのように静かな山名駅です。








学生さんの利用が多いのでしょうか、こんな看板があって笑いました。


こちらはご年配の方の作品でしょうか。

待合室に貼ってありました。

山名駅は、明治三十年(1897)に開通した上野(こうずけ)鉄道の、高崎~下仁田間8駅の一つです。

当時は、小さな蒸気機関車が、高崎~下仁田間を2時間30分かけて、
26人乗りの客車を引いていたそうです。
電化して、社名を上信電氣鐡道と改めたのは大正十年(1921)。
上州下仁田駅から、信州佐久羽黒下駅まで延伸する予定での社名変更でした。

折悪しく世界恐慌の嵐に巻き込まれ、信州までの鉄道延伸は叶いませんでしたが、今も社名を「上信」のままにしているのは、当時の高崎人の気概を、後世に伝えようとしたものでしょうか。
そして、それは伝わっているのでしょうか。

【迎光碑】






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Posted by 迷道院高崎 at 23:18
Comments(2)鎌倉街道
この記事へのコメント
陸軍大演習やお召し列車やでは、【想定外】をもなんとかクリアしょうとしたのでしょう?

上信電鉄や市や県は凄いコミットメントと責任感と覚悟だったんでしょうね。切腹しかねない人もいたんでしたね。

それを鑑みれば、今のお上はおひざをおつきになり、親しく被災者と直接お言葉をおかけなさいます(敬語はあってますか?不悪)

時節柄、現在の国や東電のコミットメントメントって(?_?)と比べちゃいますが。
Posted by 忠やん  at 2011年05月23日 00:45
>忠やんさん

昔の人は、本当に命を懸けて仕事をしてたんですね。
最近使われる「〇〇生命を懸けて…」ってのとは全然重みが違います。

ま、私なんぞも、つい「一生懸命」なんて言葉を使っちゃいますけど・・・(^^ゞ
Posted by 迷道院高崎迷道院高崎  at 2011年05月23日 20:32
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